glimpse

住みよい街

Story of Favorite 31.~60. 和訳

31.
こんなに大切になってしまった君へ。
どうやって話そうか。

こんな僕について。

32.
静寂が流れた。
僕は僕の正体について告白し
君はしばらく何も言わなかった。

夢では結局最後まで言えなかったから
僕は今 君がどんな反応をするか
全くわからなかった。

33.
幸いなことに 悲鳴をあげたり、
気絶したり、
聞くなり腹を立てて出ていってしまうという
僕の想像の中 沢山のシミュレーションを
全て逸れていった。

34.
“望むならば 記憶を全部消すこともできる”
僕が恐る恐る 先に言葉を発した。

35.
君はしばらく悩んで テーブルを見下ろした。
“この料理はなに?”
君が尋ねた。

“料理できないでしょ”
寂しくも 君は僕をよく分かっていた。

36.
“だから美味しくないかも”
僕が作ったつたない料理を 君がひと口 口へはこんだ。
“これはダメみたい” 君が答えた。

“この美味しくないオムライスを 記憶から消すのは なんだか後悔する気がする”

37.
君は黙って 僕がつたなく準備した料理たちを 美味しく食べた。

僕も黙って食事をした。

38.
口いっぱいに食べものを入れたお互いを見て
僕らは笑った。

39.
何事も無かったように僕を受け入れてくれる君が
僕は恐ろしくありながらも有り難かった。

40.
お互いが大切になるほど
時は早送りボタンを押したように
段々と より速く流れた。

夢の中の 君の表情が
最近になって 段々と暗くなっていくのは
多分 そのせいだ。

41.
“私が居なくなった その次は?君がひとり残されるでしょ"
“どうかな。それは余りに遠い話だから 考えたこと無かったけれど”
僕は君を安心させようと 微笑んだ。

42.
“そろそろ梅雨だね。僕らで海を見に行こうか。”
夢の中で聞いた君の言葉が出ないうちに
僕が言葉を返した。

43.
“本当に?”
君が子供のように喜んだ。

空にずっと雨雲が垂れこめる梅雨には
僕はやっぱりほんの少しだけど 昼にも外へ出掛けられる。

44.
この梅雨、
僕らは一緒に海を見に行くことにした。

45.
“そんなに嬉しい?
どうせ雨が降って 空も海もかすむだろうけど"
胸いっぱい期待している君が心配になって
僕が言った。

46.
“黒くない海を 君にかならず見せてあげたい”
君は想像するだけでも嬉しいのか 口角が上がっていた。
僕もつられて口角が上がった。

47.
海を愛する君が
僕は魚と似ていると思った。

広い世界を自由に泳ぐ。
僕が捕まえることのできない、傍にはおけない。

48.
だから 君が僕と同じ暮らしを生きるという言葉を
僕は聞く自信がなかった。
君が この退屈で終わりのない時間の中で
中途半端な命を生きることができるのだろうか。

49.
僕はそれを望まなかった。
僕は君が今のように 星とともに眠り、
よい夢をみて、海を愛することを願った。

50.
君を見送って 帰る道のりに
君はいないけれど 車の中はいまだに君でいっぱいだった。
君の持ちものたち、君の匂いが残っていて
僕は君がたちまち恋しくなった。

本当に どうしたらいいんだろう。
君がいなくなった後、僕は。

51.
僕らが海を見に行くことにした日
雨が降らなかったということを
僕は夢を通じて先に知ることになった。

52.
何度も繰り返す
“ごめん”という言葉を伝えようとしたけれど、
君は電話を取らなかった。

53.
僕は渡せなかったプレゼントを手の中であそばせ続けた。

54.
“ごめん”
ついに繋がった電話の向こうの
君の声がすごく辛そうで

僕は夢から醒めた。

55.
僕は君のもとへ急いで駆けつけた。
“君が好きだ。だから… 本当にすまないけれど…僕の傍にいて”

56.
どこにも行かずに 永遠に僕の胸で咲いて。
僕は君の首へペンダントを掛けた。

57.
“いつでも、永遠に君の傍にいるよ”
僕の告白に 君は僕の胸へ抱かれて泣いた。

58.
僕ら この不幸の中で永遠に一緒にいよう。

59.
“愛してる”。
僕は君が 万が一にも消えてしまわないよう
もっと強く抱き締めた。

60.
とうとう 僕らの時間は共に流れる。
そうして 全てのことがだいじょうぶになったと思った。