glimpse

住みよい街

Story of Favorite 1.~30.和訳

1.
僕の時間は永遠だ。
もしかしたら、“流れない”という言葉のほうがもっと合っているかもしれない。
だから僕は始まりと終わりのあるものが好きだ。
2.
なにかが始まり 終わる時、
僕は 刹那の時間が過ぎゆくことを感じる。
3.
夜が明け日が昇ると僕は目を閉じる。
そして夢を見る。

夢には明日が出てくる。
大きな意味はない。
どうせ僕の毎日は同じことの繰り返しだ。

4.
このお話は 特別なことのない僕の明日に
突然君が現れながら始まった。

5.
僕のながい命の中で
一番特別な刹那になる 君が。

6.
君は誰なのか。心臓が速く跳ねた。

7.
夢のように 外は雨がよく降っていた。
空気も 服の袖も 足どりも
雨を含んで重くなっていたけれど
僕は歩いた。
君に会うために。

8.
僕は扉を開けて立ち入った。
夢でそうだったように
君は薔薇をいっぱいに抱えていた。

9.
“こんにちは”
嬉しい気持ちで僕が先に挨拶をして、
“いらっしゃい”
と言いながら君が笑った。

10.
その瞬間 分かった。

僕は 絶対に愛してはいけない君を
結局愛することになる。

11.
“薔薇がお好きみたいですね”
君が尋ねた。
“ええ”

私も好きです、薔薇。
僕は夢で聞いた君の答えを待った。

“私も好きです、薔薇。”

12.
“気をつけてください。棘があります”
“はい、ありがとうございます”
君は笑みを浮かべた。

また来てください。 君の言葉に
また来ます。 僕が答えた。
僕が夢でみたのはここまでだった。
僕はしばらく扉の前をうろつき、
また振り返り、君へと向き合った。


13.
そして勇気を出して、薔薇を一輪手渡した。

14.
“日暮れに会えますか?どの日にしても日暮れです。会いましょう、僕ら。”

15.
他の人の記憶に残らないよう、僕の姿はしばしばかわってゆく。
僕らが初めて出会ってから、僕の姿は変わったけれど
君は花屋で会った僕を
今の姿で憶えているだろう。

16.
申し訳ないけれど 僕は君に
僕を憶えていてもらえるよう放っておいた。
どうしようもなかったんだ。

17.
他の人は知らずとも
君だけは僕を分かって欲しいと願った。

幸運なことに 君が僕を 先に気づいて 近づいてきた。

18.
夢で僕は コメディ映画を予約した。
“面白かったです”
映画が終わって映画館を出ながら
君が言った。
嘘だ。映画を観ているあいだじゅう
君の顔ばかり見ていたから
僕は君の本心を分からないはずがなかった。

19.
“今度はどんな映画が観たいですか?”
僕の問いに
君は映画館の隅のポスターを指し示した。

“あ。”
困り果てた僕のため息と共に 僕は
夢から醒めた。

20.
日暮れになり、映画館へ向かった。
僕は今日 君が着てくる
白いワンピースに似合う
黄色い薔薇を準備した。

21.
僕らは君が指した映画を一緒に観た。
“ヴァンパイアが主人公なんですって。面白そうでしょう?”
君の言葉に、僕はぎこちなく笑った。

22.
僕にとってこの映画は面白い訳がなかったけれど
どちらにせよ君の隣へ並んで座るのが
すごく緊張して
僕は映画に集中できなかった。

23.
君に出会って、僕は明日が待ち遠しくなった。
夢の中で 共にする瞬間たちを見ることは
いつでもドキドキした。

24.
僕はずっとひとりでしていたことを
これからは君と共にする。

僕らは一緒に本を読み
歌を聴いて
笑いながら
時間を過ごす。

25.
ゲームで負けて駄々をこねていた
夢の中の 君の姿が思い浮かび

僕は敢えてミスをした。

僕に勝って
君は子供のように笑った。

26.
“私たちは思ったより好みがよく合うみたいだ”
君が言った。

僕はそのままを話した。
僕は夢の中で未来をみることが出来ると。
だから君が好きなものを全部みてきたと。
大きな決心をして告白したことだったけど、君は信じなかった。

27.
“他にはどんなことが好き?”
僕は君に尋ねた。
君は旅も好きだと言った。

特に海の色を見ることが好きだと。
海は明らかにひとつだけれど、どこで見るかによって違う色に見えるのが不思議だと。

28.
君に会ってから、
僕も海を好きになった。
僕が見ることのできる海は
暗い 夜の海だけだとしても
僕は 君の好きなものたちが全部好きだ。

29.
“今度、一緒にエメラルドの海を見に行こう”
“そうだね。そのうち”

僕が言った。

30.
時が来るのを感じた。
そろそろ僕についての話を
君にしなければいけない。
日が沈んでこそ君を訪ねて来られる理由について、
君が好きな海の色を一緒に見ることができない理由について。